いよいよ2019年4月からの施行が迫る「働き方改革」。
この記事では、制度創設の背景や、実際に自分達の生活にどのような変化があるのか。労働者の目線でなるべく簡単に、わかりやすく説明していきます!
「働き方改革」とは何か?
働き方改革とは、一言でいえば国の政策としての「労働環境の改善施策」です。
もう少し詳しく言うと、労働者が各家庭の事情に応じて「多様で柔軟な働き方」を選択できる様に制度を整え、人々のワークライフバランスの見直しを目指しています。
1億総活躍社会の実現
一億総活躍社会という文言をニュースなどで聞いた事はありませんか?一時期、都内での託児所に空きがないことが大々的に取り上げられましたよね。
実はこの「一億総活躍社会」は、働き方改革の理念に基づいて生まれたものなんです。具体的にどのようなもののことを言うのかというと、以下の通りに定義されています。
・若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会
・一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会
・強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム
-首相官邸ホームページより引用
つまり、ただ「正社員として週5日働く」という一般化された働き方だけにとらわれず、さまざまな働き方を可能な制度を構築し、労働人口を増やすことで、日本経済を強くしようという取組みです。
少子高齢化への対策
一億総活躍社会の実現には、労働人口を増やす必要があります。
しかし、現在の労働環境を維持するだけでは、労働人口は増えるどころか減る一方です。
それはなぜかと言えば、日本は少子高齢化の国だからです。
つまり「将来的に確実視される、日本の人口減少」への対策が必要になってくるということですね。
では具体的な対策として、一体どのようなものが考えられるでしょうか。
どのように「労働人口」を増やすのか
ただし、どんなに優秀な施策だとしても、「既に働いている人」は当然ですが新たな労働人口になり得ません。
つまり、労働人口を新たに創出するには、「現在働いていない人」を労働市場に呼びこむ必要があります。
なおかつ、流入だけに気を配るのではなく、現在働いている労働者群を離脱させない策も講じなければなりません。増えた分減ってしまったらなんの意味もないですから。
あなただったらどんなものが思いつきますか?
国が考えた施策は大きく分けると3つです。
- 非就労者の労働市場への流入
- 将来の働き手を増やす
- 労働生産性を上げる
非就労者の労働市場への流入
非就労者に働いてもらう。当たり前の話ですが、学生さんに学業を疎かにしてアルバイト以上に働いてもらう訳にはいきませんので、労働市場に流入させる層はある程度絞らなければいけません。
代表例は①結婚、出産により家庭に入った女性、②定年退職したお年寄り、の2つの層です。
彼らには退職するまでのキャリアやスキルがあり、本来であれば問題なく働けたはずの人たちです。彼らを労働市場に呼び戻すことが、労働人口減少に対する対策の第一歩です。
将来の働き手を増やす
現在の話の次は、未来の話です。日本は現在世界でもトップクラスの少子高齢化社会です。
そして少子化の原因は、少なからず日本の労働環境にあると政府は考えています。
このままでは、どれだけ現在の労働人口を増やしても、将来的に子どもが増えない限りはジリ貧です。
政府は具体的に次のような項目を課題と捉え、改善を目指しています。
- 女性の非正規雇用に対する敬遠(賃金の不平等)
- 長時間労働による配偶者の育児への非協力
1.女性の非正規雇用に対する敬遠(賃金の不平等)
出産直後の女性は、育児に時間をとられ、正社員雇用を望んでも企業から敬遠される傾向にありました。どんなに男女の機会均等が叫ばれる社会にあっても、これは覆しがたい事実です。
例えば、求人サイトなどを見てもらえればわかると思いますが、企業のアピールポイントに「女性が活躍する職場です!」と書かれていることがあります。しかし「男性」版を見る事はほとんどありませんよね。
結果的に、女性は非正規職員を選ばざるを得ません。しかし、現在の日本では正規職員と非正規職員の待遇に大きな格差があります。
冷遇されるとわかっている社会に戻りたがる人はいません。
2.長時間労働による配偶者の育児への非協力
一般的に、育児に本格的に参加し始める年齢のサラリーマンは、企業でも中核をなすケースが多いと考えられます。
その時どういった事態が起きるかといえば、労働時間(残業時間)が若手社員に比べて伸びてしまい易くなるということです。
つまり、子どもの事を考えた場合、日本の労働環境は「パートナーから十分な協力が得られる」と考えるのは難しい社会である、というのが正直なところでしょう。
この2つの改善が将来の働き手を増やす為の喫緊の課題だと言えるでしょう。
労働生産性を上げる
日本の労働生産性は、先進国の中でも最低レベル、つまり、成果に比べ労働時間が長いというデータがあります。
先ほどの「長時間労働による配偶者の育児への非協力」でも述べましたが、日本では、キャリアが進むにつれどんどんと一人当たりの労働時間は伸びてしまう傾向にあります。
―億総活躍社会の実現においては、ワークライフバランスの見直しも大きな柱の一つであり、労働時間の削減を目指しています。
ということは、労働人口を増やすことと併せて、そもそもの労働の効率性も上げていかなければ、日本の経済力を強くするどころか、減退していってしまうことになります。
働き方改革によって、労働者の生活はどう変わるか?
「働き方改革」は、既に2019年4月から施策が実施されることが決定しています。
具体的に、どのように変わるのでしょうか。
ここでは、実生活に影響が大きいと思われる「改革の大きな柱」2つについて説明していきます!
- 労働時間法制についての見直し
- 雇用形態に関わらない公平な待遇を行うようにする
労働時間法制についての見直し
労働時間について、これまで見直そうという動きがなかったのかと言えば、決してそんなことはありません。
この記事を今読んでいるあなたも、「残業時間を失くそう」という話は周りで聞くことがあったと思います。
しかし、実際に世の中のほとんどの企業は、理想は掲げながらも抜本的な改革はできませんでした。
言うまでもなく、労働時間が減らすことで、少なくとも一時的には企業自体の生産性も下がってしまうからです。
ですので、「働き方改革」は法律(労働基準法)で、以下の項目について義務として制限をかける事にしました。ここまで強制力がある変革はかつてありません。
- 残業時間の上限
- 一人あたり一年につき5日間の有休取得義務
- 月60時間超の残業は割増率アップ
残業時間の上限
原則的に残業時間の上限は「月45時間、年360時間」です。実はこれはこれまでも同じ基準でした。
ただしこれまでは、労使協定により合意が得られれば、実質時間の上限は青天井でした。
改革後は、「年間上限は720時間まで」と決められており、これは労使間でいかなる合意があっても覆りません。
また、繁忙期などに臨時に超える必要がある場合でも、45時間を超えて働かせられるのは年に6カ月までとも法律で決定されました。
労使間の協定というものは、特に中小企業などにおいては、大多数の一般の職員が与り知らぬところで自動的に合意してしまっていることが珍しくありませんでした。
こういったある意味曖昧な部分を排除した施策となっています。
実施時期
「働き方改革」の実施時期(=導入すべき時期)は、企業の規模によってわかれています。
- 大企業では2019年4月から施行
- 中小企業では2020年4月から施行
中小企業は導入に向けた専門の人員などを割くのが難しいということを考慮して、1年猶予が設けられていますね。
一人あたり一年につき5日間の有休取得義務
こちらも残業時間と同様に、「有休を取得しなさい」という風潮は社会になんとなく流布されてきましたが、実際には多くの企業で「有給休暇を取得しづらい」という意見が上がることが常でした。
今回の改革では、こちらも法律上で「一年につき5日間の有休取得義務」が企業に通達されます。
ただしもちろん有休の取得日数は在籍期間によってバラバラですし、5日しか付与されない人に5日使わせてしまうのはデメリットにもなり得ますので、対象は「年10日以上年次有給休暇が付与される労働者」に限定されます。
月60時間超の残業は割増率アップ
2010年の労働基準法改正により、月あたり60時間を超える時間外労働については、5割の割増率を加えた割増賃金を払うこととされました。
しかし、この対象は大企業に限定され、中小企業はこの規定の適用が猶予されたまま、割増率は2割5分に抑えられてきました。
改革により、2023年4月からは中小企業においても月に60時間を超える時間外労働については150%の割増率で残業代が支払われることになります。
雇用形態に関わらない公平な待遇を行うようにする
先ほど、働き方改革の大きな目標の一つは労働人口を増やすことであり、その為に女性の社会復帰も重要であるという話をしました。
その女性の社会復帰の足かせになっていたものが、正規職員と非正規職員の待遇の格差です。
同一労働同一賃金
不合理な待遇差をなくすための規定を設けることで、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者への待遇の抜本的な見直しが行われます。
- 均衡待遇 ⇒ 職務が異なるとき、違いに応じてバランスをとった賃金
- 均衡待遇 ⇒ 職務、内容責任の度合いが同じならば同一の賃金
一度キャリアを中断してしまった方がいきなり正規職員に復帰するのは実情として難しいところがあります。
復帰を目指す方が復職に際して不安を覚えることは「非正規職員は賃金が安い」という事実が非常に大きいと思います。
今回の改革では、この不安を解消し、非正規職員として雇用された場合でも「仕事をした分はきちんと給与に反映される」規定が整備されることになりました。
まとめ:働き方改革がもたらすもの
働き方改革が創設された背景や、その理念。
さらには、実際の一般労働者の就労における変化などについて、できるだけ簡単にざっくりと説明してきました。
今後は、これまで皆が「なんとなく」認識していた労働環境の改善が、法律(労働基準法)で整備されることになります。
正直に言うと、労働基準法は、違反しても刑罰はそれほど重くありません。(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)ですので法律で提起していても、違反する企業がすぐに0になる、とは考えにくいところはあります。
しかし、ただでさえ人手不足の現状、労働基準法違反をしている企業に応募しようという変わり者はいないでしょうから、確実に改革の効果は今後出てくると思います。
法律違反は、刑罰以上に企業自身の首を絞めることになりますから。
これを書いている僕自身もサラリーマンですので、今後どのように会社が待遇を変えていくかのか期待している面は少なからずあります。
また、企業が正確に「働き方改革」について理解できていなくても、あなた自身が正確に理解できていれば、不利益を被ることを避けられるかもしれませんね!
以上です、ご参考になれば!