みなさんこんにちは!
僕の名前は忘木晴太<わすれぎ はるた>!
漫画家として大成し、業界に名を残すという野望を胸に、日々是精進!!勉強の毎日さ!
その毎日の勉強のおかげで、自分でも、背景の描き方やコマ割りは以前よりずいぶん上達したって感じてる!!
だいぶ自信もついたし、明日はいよいよ出版社に持ち込みに行こうって、思ってるんだ!!
今さら持ち込みなんて古いって!?え?賞に応募?ノンノン、違うよ。全然違うよ。
持ち込みが全ての基礎だからね。何はともあれまずは担当になってもらわないとね!バクマンにもそう書いてたし!
担当と僕の情熱のSESSIONによって、生み出される革新的なうんたらかんたらがどうたらこうたらさ!
もちろん上手い横文字で表現することは全然できるんだけど、まあ今日はこの辺にしておこうかな!
さあ、原稿も準備万端!早めに寝て、明日は元気に挨拶しにいくゾ☆
イっケネーーーーっ!!!寝坊したーーーーあっ!!!!
やばい!!このままじゃ電車に乗り遅れちゃう!!
こうなったら必殺のBダッシュだああああああ!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
プシューーーーッ
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ふうぅぅぅぅぅぅ ま、いっか。2秒くらい待ってくれれば間に合ったんだしね。惜敗ってとこかな。まあ、編集の人だっていちいち分単位で時間を計ってなんていないだろう。余裕余裕。
原稿さえ見てもらえば、僕の溢れかえらんばかりの才能の片鱗に気づいてさえもらえれば、その時点でWinnerは僕なんだから。フフっ
まあ焦ってもしょうがいないし、まずはキャラメルなんたらかんたらラテ的なものでも飲もうかな。
さあ、着いたぞ。ここが獣英社だ。
なんたって発行部数日本一の雑誌、『週刊少年跳躍』を出版している会社だからな、さぞ編集者の目も肥えていることだろう。
というか見た目すらも肥えてたりしてね☆ プフーッ!ホント僕って面白いなあ。
さすが21世紀の小池徹平って言われるだけの事はあるよ。
今回は、ファンタジーだけど、次回はコメディータッチのものを描いてみてもいいかもな。プフーッ!ああ、自分の才能が怖い。
おっあそこが受付かな??
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
おー!!さすが日本一!!受付嬢もハクいねえ!ヒューッ!!!!!
おっと。ここはクールにキメないとな。なんたって僕は未来の巨匠なんだから。
ゴホン
「嗚呼、ボク、忘木っていう者なんですがね。本日、原稿の持ち込みの件で、井上さんに予約を入れてるんですが?その辺どうですか?」
「(・・その辺?)かしこまりました。井上でございますね。ただいま連絡を取りますので、そちらにおかけになってお待ち下さい」
「嗚呼、ありがとう。その笑顔、君の宝物にしなよ。」
「は、はぁ・・」
カッコイイ。カッコよすぎる。最高。ボク最高。
完全に花沢類超えたなこれ。やばい、自分に抱かれたい。もう出だしからいっちゃったなコレ。始まったな。ボク。
さーて、では井上さんとやらを待つと致しましょうか。
ククク。僕の原稿を見て涙するのは間違いないな。楽しみだ。ククク。
獣英社 担当デスク
「はい井上です。」
「・・は?来た!?いまさら!?もう約束の時間1時間も過ぎてるじゃねーかよ!ひやかしだとばかり思ってたわ!」
「・・・ああ、すいません。今行きまーす」
ったく、新人のくせに編集待たすなんて100年早えぇってんだよ。こっちゃ忙しい中わざわざ時間割いてやってんのによー。てかおせーなこのエレベーター相変わらず。
チーン
で・・・えーと?お、あいつか?
!!
な、なんか昭和の匂いがする・・・!!
ひとつひとつのパーツは大しておかしくないが、全体的なバランスで見ると物凄くダサい・・!!!
こ、こいつ・・・間違いねえ・・!!プロニートだ!!!
「や、やあ。お待たせしてすいませんね。井上です」
「おお、あなたが井上さんですか。どうも忘木です。本日はお招き頂きありがとうございます!!」
「う、うん?はい。・・・どうも。で、早速なんだけど原稿見せてくれるかな。時間も無いことだしね」
「ははぁ、井上さんはせっかちでござるなぁ、そんな事じゃ女の子に嫌われてしまいますよ。プフーッ!!」
「原稿」
「ハイ」
えっ怖!!?!?せっかく僕がウィットに富んだギャグで二人の間の壁を取り払おうと思ったのに、コンマ2秒で壁の増強工事始めやがったよ!??
こ、コノヤロー・・・僕の原稿を読み終わってからもその横柄な態度が続けられるかが楽しみだぜ・・!!
フフ・・・フフフ・・フフフーフ・フーフフ。
「不採用」
「FEEEEEEEEEE-------ッ!!?」
「うん、また次頑張って。期待してるから。じゃ」
「いやいやいやいやいやいや!!!読んでないでしょ!!?今多分1分くらいしか間が無かったですよ!!?」
「いや、読んだよ。1分ぐらいで読めるよ。これで飯食ってんだから」
「だ、だったら内容を簡単に言ってみて下さいよ!」
「えー、中世ヨーロッパを舞台に殺人鬼の主人公が次々に農民を襲い、金品を強奪。その強奪した金を元手に投資信託を開始。結果多額の負債を背負うが、持ち前の人当たりの良さを武器に古着屋を開店。借金を半分返し終えたところで『オレの挑戦はまだまだこれからだ!』だろ?」
「う、うぐぅ。ちゃんと読んでたんですね」
「わかった? じゃあ、今日はわざわざありがとね」
「ちょちょちょちょちょっ!!待って下さいよ!僕の作品のどこが悪かったんですか!?普通ここをこうした方がいいとかアドバイスくれるもんでしょ!」
「いや、悪いトコありすぎていちいち言うのがめんどい」
「いや正直か!?!っていうかあなたホントに編集者なんですか!?僕の才能に気づかないなんて無能もいいところですy」
「ナニ?」
「イイエ」
いやだからこえーよ絶対8人は殺したことあるだろこの人・・・。
「はあ・・・。じゃあ言ってやるよ・・。本当にめんどいけど」
「まず、オレ自分で言ってて笑いそうになったんだけどさ。
展開変わりすぎだろ!?30ページくらいにまとめろって言ってんだから、『あ、こんな入らねえわ』って気づけよバカ!
「バカ!!?!!?」
「後半なんか1ページごとに主人公老けてってんじゃねーか!!タイトルの『六本木心中』も物語に少しもカスってないしな!?!!?」
「ま、まあ・・・そ、そうかもしれませんね」
「ってかなんで中世ヨーロッパにした、舞台?投資信託とか古着屋なんて中世にねーよ!!町並みも後半1ページごとにまるまる変わってんじゃねーか!!そんで中世ヨーロッパにスタバねーよ!!!!てかこれもう背景渋谷だろほぼ!」
「ちゅ、中世ヨーロッパってなんかかっこいいし・・あ、あと主人公の名前をリヒトにしたかったから・・」
「なんだそれ?名前優先で話作ったの!?えっ?バカ!?っていうかそもそもお前の『忘木』ってペンネームだろ?編集との挨拶でいきなりペンネーム名乗る奴いるかバカ!!」
「いや、本名です・・」
「ハァ!!?」
「本名・・・」
「名前を言え?」
「田中哲郎です」
「よし、田中君。なあ、田中君。」
「はい」
「今日はこの辺で許したるから。早よかえろ」
「ありがとうございます」
「ほんじゃ、またな。」
「なんかホントサーセンっした!失礼します!押忍!!」
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今日、僕は何しにここに来たんだろう。なんで最後空手家みたいになってしまったんだろう。
罵倒される為だけにはるばる来たんだろうか。
ただ・・・、ドMである僕からすれば完全に”アリ”だ。
うんうん。よしよし。物語をもう一回練り直そう。
投資信託ってのはやりすぎだったな。そんな難しい話、小中学生にはわからないものな。そうだ、今流行のインド株あたりにしよう。
小学生とかカレー好きだしな。これは食いついてくるぞう。
カレーだけに。
プフーッ!!ホントに僕って面白いなあ。
自分の才能が怖い。ホント。あの編集も怖い。
外の世界は怖い。今すぐ家に帰ろう。Bダッシュで。
ご愛読ありがとうございました!忘木先生の次回作にご期待ください!!